大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和48年(う)1433号 判決

被告人 松尾重雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人花元直三作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は要するに、被告人は大阪市都市再開発局都市改造部移転補償課の補償担当係員として土地区画整理に関する移転補償契約の事務を担当していたが、その契約内容の実現に関する事務処理の職務権限はなく、要移転者である金甌連合自治会会長米田勘四郎に対して解体業者である中平好喜を紹介斡旋し、工事請負契約を締結させたことは、被告人の職務外の行為であるのにかかわらず、これを本来の職務と密接な関係のある行為と認定した原判決は事実を誤認したものであるというのである。

所論に鑑み記録を精査して案ずるに、原判決の挙示する証拠によると原判示事実を優に認定することができる。

すなわち、移転補償課は、大阪市事務分掌規則一六条により土地区画整理に伴う地上物件の移転および補償に関する事務、右移転のための土地および仮設収容建物の管理、処分に関する事務を担当し、同課には制度上の係は設置されず、課員は数名の主査のもとに配属され、そのもとで便宜、物件係と補償係とに分れていたにすぎないこと、従つて、補償係は直接には物件係のなす査定に基き要移転者と移転の交渉ならびに移転補償契約をし、その契約の執行を促がす職務のみを行つていたが、土地区画整理に伴う地上物件の移転は元来補償係を含む移転補償課員の所管事務に属するものであるから、移転補償契約の円滑な執行を図る目的で補償係または物件係が要移転者に対し移転解体業者を紹介斡旋する行為それ自体は被告人の職務執行行為ということはできないとしても、その行為は被告人が当時公務員として所管した職務の執行と密接な関係のある行為と認めるのが相当であり、原判決に事実誤認はない。論旨は理由がない(なお原判決は刑法一九七条の五後段による必要的追徴を遺脱しているが、刑事訴訟法四〇二条により、これを是正することができない)。

よつて、刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例